2023 年 74 巻 3 号 p. 502-518
「子どもの貧困」の社会問題化では,それを契機とすることによって,貧困一般の公的解決に向けた社会的同意を得ることをめざしていた.しかし「子どもの貧困」の強調には,「大人の貧困」を自己責任として脱問題化するのではないかといった批判がなされている.
本稿では上記の論争を踏まえ,人々は貧困者の救済を行政・親族・本人の誰が行うべきだと考えるのか,その帰責先は貧困者の特徴によってどう変わるのかについて,オンラインサーベイ実験から得たデータを用いて分析した.とくに,子どもの重要性に着目し,子どもの有無やその属性に関する情報が,貧困者の救済に関する人々の意識に与える影響を検討した.
分析から,貧困者に優秀な子どもがいることは行政への帰責を強化しており,貧困状態にある子どもへの公的な救済の支持が,子どもの成績で条件付けされることが示唆された.また同時に,貧困者に子どもがいることは貧困者本人や親族への帰責を強化しており,貧困状態にある子どもの救済責任がその親族に付与されることが示された.
以上の結果は,人々が救済に値すると判断する子どもは成績が優秀である場合に限定されることや,貧困状態にある子どもの救済責任を行政ではなく親族に帰する回路が存在していることを示すことから,「子どもの貧困」を前面に出すことで貧困一般の公的な解消につなげていく言説戦略には一定の困難が伴うことを示唆するものであるといえる.