2025 年 75 巻 4 号 p. 406-425
日本の環境社会学の特質と喫緊の課題は何か.まず創始者・飯島伸子の歩みに即して検討する.公害問題の実証研究をとおして独自に注目した加害・被害,加害者・被害者,被害構造という視点は日本の環境社会学の出発点となった.環境問題に主眼をおき,質的な現地調査にもとづいて,加害被害関係とコミュニティレベルに照準をあて,当事者の視点を重視するのは,日本の環境社会学の大きな特質である.環境問題の社会学は加害論・被害論・運動論・政策論からなるが,環境経済学や環境法学に比較して弱体な政策論の彫琢は今後の大きな課題である.
一方,このような特質に規定されて,海外の環境社会学者は積極的に取り組んできたにもかかわらず,気候危機に対する日本の環境社会学者の対応はこれまで鈍かった.気候危機は,日本の環境社会学が蓄積してきたツールや問題意識が活用しにくい研究テーマと思われてきたからである.
COMPON Japan の共同研究によれば,政府・企業・メディアは既得権益や履歴効果にしばられ,政策転換への動因をあまり有していない.この消極性を双方向的に規定しているのは市民の側の消極性である.局面打開の伴として,目下日本で期待しうるのは地方自治体のイニシアティブである.
飯島の歩みは,既存の境界線の内側に安住することなく,当事者の声に耳を傾け,社会問題を発見・開示し,社会的要請に応えようとする真摯な努力の意義を教えている.日本の社会学の次の百年を考えるうえでも示唆的である.