抄録
家族の構造や機能は、全体社会の史的発展段階にともなって変容する。当然に、今日のわが国における家族の構造そして機能は階級的、階層的な規定性のもとにある。これまでの家族研究においては、この階級的、階層的規定性は所与のものとして分析の枠外におかれ、もっぱら「家族」にのみ焦点がむけられる傾向がつよかったと考えられるが、本稿においては、賃労働者層に焦点をしぼり、現実にそれらの家族が日々いかなる階級的、階層的規定をうけて存在しているのかを追求した。それは、いいかえれば、家族集団をそれをとりかこむ外集団のなかに位置づけて把握しようとするこころみである。
具体的には、第一に賃労働者の職場での労働諸条件を基礎とする労働過程によって、家族を中心とする生活過程がいかに規制されているか。第二に、こうした規制に対して、人々は、家族を中心とする生活のレベルで、これにいかなる対応をみせているか。そして第三に、こうした規制と対応のダイナミックスのなかで、現実にいかなる家族生活がいとなまれているかについての検討にしぼられる。
本稿では、北海道夕張市の大手炭鉱、A鉱、B鉱にはたらく炭鉱労働者三層-職員層、鉱員層、組夫層-とその家族を対象とする実態調査の結果を基礎に、これらの諸問題を現実の生活におりて把握し、これを実証的に検討することをこころみた。