社会学評論
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家産制とカースト
マックス・ウェーバーのばあい
岡澤 憲一郎
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1976 年 27 巻 1 号 p. 2-17

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抄録

マックス・ウェーバーの視点からすれば、アジアにおいて近代資本主義、とくに「工業的資本主義」を阻止したものは、政治社会学的にみれば、支配構造としてのシナの家産制 (Patrimonialismus) であり、社会制度としてのインドのカースト秩序 (Kastenordnung) である。本稿は、それぞれウェーバー『宗教社会学論集』 (M.Weber, Gesamelte Aufsätze zur Religionssoziologie, 3 Bude., 1920-1921) の第一巻と第二巻に収められた「儒教と道教」 (Konfuzianismus und Taoismus) と「ヒンドゥー教と仏教」 (Hinduismus und Buddhismus) のうちにみられる歴史的な政治社会学的分析に焦点を絞って、アジアにおける近代資本主義の成立を妨げた側面を支配構造や社会制度とエートス (Ethos) との関係からとらえる一つの試みである。
ウェーバーにあっては、エートスは「倫理的態度」 (≫ethisches Verhalten≪) であり、宗教倫理との関連で形成される経済信念 (Wirtschaftsgesinnung) や生活態度である。しかし、ここでいうエートスは、支配構造としての家産制や社会制度としてのカースト秩序が生み出す伝統的信念 (traditionale Gesinnung) ないしは生活態度としての伝統主義である。こうした視点からわたしは、家産制やヵースト秩序、知識人階層と権力の関係などの考察をとおして伝統的エートスの発生基盤を明らかにするとともに、家産制もカースト秩序もそれらが生み出した伝統的エートスによってアジアにおける近代資本主義の成立を妨げた点を明らかにしたいとおもう。

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