1979 年 29 巻 3 号 p. 20-36
家族と「家」の理解をめぐり有賀喜左衛門と喜多野清一両氏の問で展開された論争については、その直接の契機となった戸田貞三の家族理論の評価の問題に、両氏の理論的立場の相違がよく示されている。そこでこの「有賀・喜多論争」を検討しようとする場合、ひとまず戸田家族理論と有賀「家」理論の方法論上の相違にまでたちかえって、考察していくことが要請される。
家族生活の近代化に着目し、「小家族」論的立場から家族集団の結合原理を論理的・演繹的に措定し、これを理論的準拠枠として日本家族の実証的分析を行なった戸田に対して、柳田国男の民俗学を経由した有賀喜左衛門は、家族生活の歴史的変遷に関心を寄せ、「大家族」形態に日本の家族の本質見い出し、帰納的手続きにより「家」として日本の家族を定義した。本稿はこうした戸田と有賀の方法論上の相違を、両者の社会学基礎理論とのの関連で検討しようとするものである。