抄録
近年五島のキリシタンは、役職者の高齢化と後継者の不在の状況が進展するに伴い、諸所で帳 (宗団) が崩壊しかけ、または事実上崩壊した所がでてきている。本稿は、かかる情勢の中で、下五島の二つのキリシタン村落が習合神道大本へ集団改宗した、その原理と過程を分析する一宗教社会学調査研究である。キリシタンの集団改宗は明治以来、至って稀で、これは近年でも珍しい事例である。改宗原理は、宣教師の意識.態度・行為が連関する「伝達原理」、キリシタン村落が大本を受容した内的歴史的必然性=「受容原理」、そして他ならぬ大本を選びとった「専取原理」、の三原理で構成される。現世利益と祖先崇拝の二要素を含む両教の呪術宗教的性格が改宗原理の基調をなしている。
改宗過程には、改宗行為と、それに継起する制度化過程 (祭祀・組織) が含まれる。改宗をめぐる社会関係に着目した場合、一方の村落からは「血縁=黙示的改宗パタン」が、また他方からは「地縁=明示的改宗パタン」が、それぞれ析出された。しかも、この差異はその後の制度化過程をも規定し、両村の改宗過程を対照的に展開せしめたのである。