抄録
本稿は、ジャワ農村家族の親子関係の特質を明らかにするとともに、同時に、ジャワ農民の家族あるいは諸集団への稀薄な共属感情が、基本的には子どもの頃の社会化の過程を通じて形成されることを明らかにしようとしたものである。
ジャワ農村社会は、総じて人間関係の連帯性が稀薄な柔構造社会だといわれる。その理由のひとつは、ジャワ人は集団への共属感情が稀薄で、生活の諸局面において行為選択の許容される幅が大きいからである。このようなジャワ人の態度は、基本的には、子どもの頃の社会化の過程で形成されると考えられる。
ジャワ農村の子どもは、乳幼児期に著しく甘やかされて養育され、周囲の保護の下に自分の要求が常に充されるために、自己の主張を出さない態度を身につけるようになる。児童期になると、子どもは、「尊敬」 (urmat) の価値を習得して序列階梯に基づく秩序を自覚するようになり、自己の個性や感情を抑制してタテマエに即した行動をするようになる。それゆえ、子どもは、上位にある父親との間に人格的要求に基づく充分な同一視の機会をもちえず、母親との間に強い紐帯関係をもつようになる。こうした序列に組みする不等質な社会化を通じて、子どもは、家族をむしろ二個人間の結合関係の累積体と意識するようになり、このような態度が家族や諸集団への共属感情を稀薄にさせている。