戦後日本農村の支配構造を論じるさい、注目をあびたものにエージェント支配論がある。そこでは伝統的な共同体 (的) ムラ支配秩序に対して国家独占資本主義による一元的支配が説かれ、「国家独占資本主義のあらゆる諸機関に結びついた便乗利得者」 (栗原) である上層農民の存在が必要となる。しかし、この理論が農村 (農業) の全般的支配に力点をおいた結果、農村集落内リーダー層の検討・分析は十分であったとはいえない。とりわけ一九六〇年代以降の地域政策 (農政を含む) は、農村 (集落) 次元での諸問題を噴出させてきており、基本的にはムラ支配秩序の変化を過度に押し進めてきていると同時に、その変化の差をもきわだたせてきている。
地元層が少数になってきている「混住化」農村 (集落) では、集落完結的支配はもはや今日不可能になってきており、そのばあい集落内で二様の支配ルートが用意され、より広域化した次元での支配にそれぞれ結びつけられていく。そうすることで地元層の利害が守られていく。かかる支配の広域化と集落内秩序との関連、およびエージェント支配の今日的在り様について検討を深めていく必要があろう。