本稿では「ルサンティマン」概念に焦点を絞って、ウェーバーとニーチェとの思想的関係を検討した。ウェーバーは、一方では「世界宗教の経済倫理」の「序論」の中でニーチェの「ルサンティマン」論を批判的に検討しており、他方では「詩篇」の宗教型や原始キリスト教についての叙述の中で「ルサンティマン」の存在を指摘している。我々はこれらから一応のウェーバーの「ルサンティマン」論を読み取ることができる。しかし、実は、ウェーバーのいう「ルサンティマン」とニーチェのいう「ルサンティマン」とは、いくつかの点で相違するものであり、したがって、ウェーバーの「ルサンティマン」論からただちにウェーバーとニーチェとの思想的関係を導出することはいったん差し控えなければならない。
ただし、ウェーバーの宗教論総体や個人的信念を踏まえてみると、ニーチェが「ルサンティマン」論に込めた価値関心との共通性が見出されてくる。まず第一に、「神義論」や「救済欲求」に鋭い考察を施したウェーバーの宗教論にはニーチェと同一の観点が反映されている。さらに第二に、自己の置かれた利害状況に精神を屈従させることなく、主体的・能動的な意志決定と実践を敢行するべきだという実践倫理のパトスをニーチェとウェーバーとは共有しているのである。