抄録
A. シュッツの主著『社会的世界の意味構成』 (1932) は, これまで現象学的社会学の基礎として評価されてきた。しかしこの著作は, 他方で, オーストリア学派経済学の基礎論として読むことができる。本稿では, まず, 初期のシュッツのおかれた問題状況から, 彼がいかにしてオーストリア学派の経済理論を正当化しようとしたのかについて, とくにシュッツの師にあたるミーゼスとの関係に注目して, 再構成を試みる。次に, 親密な交友関係のあったシュッツとハイエクについて, 両者の方法論を比較検討しつつ, シュッツにおける方法論的諸問題を摘出する。最後に, シュッツの方法論におけるその他の問題を内在的に批判すると同時に, 彼の方法論をオーストリア学派の基礎論としてみた場合, それは強力な基礎論にはなっていないことを論じる。その主要な原因は, シュッツが「主観」と「客観」の整合性に論じる場合に, これらの概念をさまざまな意味で用いることによって議論の精確さを損なったことにあると考えられるが, 全体としては, シュッツの方法論には折衷的な態度があることに帰因する。