組織が革新的な決定や選択を要求されることが多くなっている。例えば, 斬新な製品や技術の開発, 突発的な政変への対処についての決定や選択である。こういった決定や選択は, 官僚制的な縦割組織の常軌的な意思決定方式や作業の流れからは生まれにくい。現在, 革新的な決定や選択を分析する代表的モデルは, ごみ箱モデルなどの “組織化された無秩序” モデルである。これらのモデルは, 組織内の関係のあいまい性, ランダムな意思決定過程, 決定結果の事後的合理化, そして組織メンバーの意志や自発性と決定との無関係性を強調する。革新的な決定は, 意図せざる “偶然” の産物であるとされる。確かに “革新的” な事象には, 偶然に見える意外性が潜んでいる。だが, 組織内では, 組織内メンバーの自発性にもとづき, 組織の歴史的制度的文脈に規定されたある種のゲームが行われている。決定や選択の現場には, 具体的な利益や影響力の構造が存在している。多くの決定や選択はその上で, メンバーの自発的な意図に端を発するコンフリクトや交渉を経て成立している。こう考えると, 決定の偶然性や過程のあいまい性を重視するモデルは, 組織内社会過程の厳密な分析であるというよりは, 決定の過程一結果関係から, 政治的ゲームの一側面をマクロ的抽象的に描写したカリカチュアだといえる。よって, 実際に組織の決定過程を分析するには, 政治的ゲームの概念にもとつく決定過程モデルが要求されるのである。
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