抄録
中央政府・地方政府を主要な運営主体として運営される福祉国家体制は第2次世界大戦後の一定期間社会的合意を得られ, いまなおひとつの理想モデルとされるのだが, 1970年代以降, 財政危機と日常生活の管理などから, 種々の批判にさらされてきた。その結果, 福祉国家はその理想モデルの座を, 人々が地域社会やNPOなどを通じて運営の中心となる福祉社会へと明け渡しつつある。そこでは, 福祉国家と福祉社会は運営主体をめぐって対極に置かれるべき存在として位置づけられる。福祉国家はその基本発想から貧困・低所得層向けの政策を重視すると考えられるが, 社会保険が政策の中核となることや福祉サービスの対象者の拡大, 利用者負担の軽減をめぐって, 次第に中流階層もその体制から相当程度の利益を受けるようになり, 「中流階層のための福祉国家」とも呼ばれる様相をあわせもつ状況になりつつある。他方で, 人々が相互援助的に助けあう福祉社会の中心のひとつと考えられるNPOは, その骨格部分を中流階層によって担われる組織でもある。したがって, 中流階層は, 福祉国家からの受益者でもあり, 福祉社会の担い手でもあるという二重性を帯びる存在と化してきている。それらの事実をふまえるならば, 福祉国家と福祉社会は, 運営体制をめぐる両極の概念として把握されるばかりでなく, 「豊かな社会」が生み出した中流階層を媒介として, 新たな関係の下にその位置づけを再検討することも求められると言えよう。本稿はそのような新たな視点を獲得するための試論である。