抄録
日本は,歴史的にみて中間子科学との関わりが深く,湯川秀樹博士によって中間子の存在が予言された国として有名である.この新しい中間子(パイオン)は実際に発見され,大型加速器によって人工的に作り出す事ができる.今ではパイオンや,パイオンが崩壊して生まれる正・負ミュオン(μ±)を,ビームとして容易に得ることが可能である.日本でも世界に先駆けて,1980年に東京大学理学部中間子科学研究施設(現,KEK-MSL)が発足した.陽子シンクロトロンからの陽子ビームを用いたパルスミュオン源である.瞬時強度が強く,RFやレーザー等の極端条件と同期することができる“パルス”という特徴を生かして,数々の研究手法が培われ,幅広い研究が育くまれてきた.しかしながら,ビーム強度(500 MeV/6 μA)という観点からは,世界標準であるTRIUMF,PSI等のDCミュオン源,英国ISIS,理研RALのパルスミュオン源に比べると,2桁-3桁も見劣りしていた.このような状況を打破し,日本国内に大強度ミュオン源を誕生させ,再びミュオン科学研究の“世界の研究拠点”にする事が,日本のミュオン研究者達のここ十数年来の夢であった.JHF計画を経て,2000年12月,J-PARCプロジェクトの建設が認可された.3 GeV/333 μA(1 MW)陽子ビームを用いたJ-PARCミュオン科学実験施設(MUSE)では,数本のミュオンビームラインが既に完成し,2009年12月には,KEK-MSLの400倍,理研RALの強度を越える世界最高強度のsパルス状ミュオンが生み出され,まさに次世代の科学研究が飛躍的に展開されつつある.