病状の改善がみられず,死を思い苦しむ慢性呼吸器疾患をもつ人々を,医療者はどのように援助してゆけばいいのだろうか.慢性疾患と共に生きる人々の言動,そして行動の意味を洞察する道標のひとつに,病みの軌跡理論がある.本理論は,StraussとGlaserらによる,死にゆく人と家族,医療者の相互関係の研究から発展したものである.Straussは病院,及び家庭での慢性疾患の管理を調査し,慢性疾患を生きる人々は軌跡を描くことを1984年の著書,慢性疾患を生きる―ケアとクォリティ・ライフの接点,にまとめ,1992年,看護師のCorbinと病いと生きる方策を導く本理論を開発した.
本稿では病みの軌跡理論の成り立ち,および主要概念を概説する.また,病みの軌跡理論を基盤とした,病状の改善の見られない慢性呼吸不全患者が今を生きることを見出してゆく看護援助の事例研究を用いて,高度実践看護師である専門看護師による理論と実践の統合について解説する.