2023 年 38 巻 2 号 p. 219-231
2016年に京都大学と日立製作所によって設立された日立京大ラボは,主に人文・社会科学系の「知」の協創に係る共同研究部門であり,「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」をテーマとして,京都大学のさまざまな学術分野の有識者・研究者,学生などと連携しながら新たなイノベーションを創生することをめざしている。具体的には,「2050年の社会課題と,その解決に向けた大学と企業の社会的価値提言」と「人や文化に学ぶ社会システム」の2つのテーマを推進している。その根底にあるのは,「ヒトが人であるがゆえに起きる社会課題」,つまり,そもそも人は合理的な生き物ではなく,それゆえに生じる課題を探究するべきであるという考えである。そのうえで,これまでの最適化や効率化をめざしていた社会システムにおいては,おもてに出てきにくかった実際に社会で生活している人に焦点を当て,人は自然・風土・文化の中ではぐくまれ,自然や社会と共に扶け合って生きているという全体論的価値観の重要性を念頭に置きながら,新たな社会システムの研究を進めている。本稿では,日立京大ラボの概要を述べた後,人文・社会科学系の産学連携の類型化と関連する日立京大ラボの具体的な活動を対応付けて振り返り,最後に今後の産学連携の在り方について私見を述べる。