主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
CD3二重特異性抗体(CD3BiAb)は、T細胞に発現するCD3とがん抗原に同時に結合し、T細胞とがん細胞を結びつけることでT細胞を活性化し、がん細胞を傷害する。CD3BiAbは血液腫瘍において高い治療効果を示すことが知られており、現在、固形腫瘍を含む様々ながんに対する効果が期待されて開発が進められている。サイトカイン放出症候群(CRS)はCD3BiAbの重要な副作用であり、その抑制や軽減について様々な検討が行われている。CRSに対して、ステロイドや鎮痛解熱剤の前投与、抗IL-6薬の投与、漸増投与レジメンなどの有効性が報告されているが、決定的な対策を見出すことができていない。GPC3に対するサルサロゲートCD3BiAbを用いたin vivo実験では、1週間の漸増投与により薬物血中濃度を徐々に上昇させることでCRSの症状が改善され、その後は1週間間隔の高用量投与でも重篤なCRSを起こさなかったため、何らかの寛容状態が誘導されている可能性がある。ADCC抗体においても、CRSは初回投与時に起こりやすく、2回目投与以降ではCRSが大きく軽減されることが知られている。しかし、抗体医薬の反復投与時にCRSが軽減されるメカニズムは不明である。我々は、in vitroでCD3BiAbを前処理することでサイトカイン産生を抑制するモデルを作成し、リンパ球の反応を検討した。CD3BiAbをヒトリンパ球に反復処置すると、CD3下流のシグナルは抑制されないが、サイトカインmRNA転写は抑制される。ATAC-seqにより、初回刺激を受けたリンパ球では経時的にクロマチンアクセシビリティが変化しており、エピジェネティックな変化が重要な役割を担っている可能性が示唆された。本発表では、これらCRS抑制を目指す非臨床研究について紹介する。