2024 年 39 巻 2 号 p. 107-116
本稿の目的は,製造業における生産現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)成果を企業成長に結びつけるプロセスについて考察し,なにがそのプロセスを阻害しているか,論じることである。
日本企業はこれまで,DXの取り組みとして業務プロセスの効率化と組織横断的製造プロセスの構築に力を注いできており,一定の成果をあげてきている。これは,これまでトヨタ生産システムに代表されるように製造現場をベースに競争力を培ってきた日本製造業においては,過去の道筋に影響を受ける経路依存的なイノベーションと言える。一方,収益化には,「デジタル技術の導入による既存ビジネスの付加価値向上」や「新規デジタルビジネスの創出」といった市場に向けたDXの必要性が強調される。その背景には,日本企業のDXの取り組みが業務プロセスの効率化にとどまっていて新たな価値創出につながっていないことを問題視する見方がある。
では,なぜ,価値創出につながらないのだろうか。何がブレーキをかけているのだろうか。本稿では,日本企業が得意とする生産現場のDX成果を企業成長につなげてくプロセスとその阻害要因について論じる。