2024 年 39 巻 3 号 p. 281-294
本稿では,学術系クラウドファンディングの現状と可能性について,人文・社会科学分野に焦点を当てて考察する。学術系クラウドファンディングの成功には,研究者や研究テーマへの「共感」が鍵となり,そのためには研究者が「研究のVision」を明確に発信することが重要である。特に人文・社会科学分野は,身近で共感を得やすい研究テーマが多く,また研究に必要な資金規模が比較的小さいことから,学術系クラウドファンディングとの親和性が高い。研究のVisionの発信は,多様なステークホルダーとの協働や新たな研究パラダイムの創出,AI時代の課題への対応にもつながる。また,学術系クラウドファンディングは寄付文化の民主化や市民参加型の意思決定メカニズムとも相互に作用し,中央集権型から分散型へと研究推進体制を変革する可能性を持つ。研究者一人ひとりが社会との対話に踏み出すことで,学術研究の新たな地平が拓かれていくのである。