2025 年 40 巻 1 号 p. 73-86
近年の我が国における研究力低下の要因をめぐってはこれまでさまざまな議論がなされてきたが,今世紀に入って次々と創設されてきた大型の資金配分事業が我が国の研究力にいかなる影響を及ぼしてきたかも重要な論点と考えられる。科学技術・イノベーション(STI)政策分野の過去の大型事業に関する評価や分析はこれまでも一定程度行われてきた。しかし,我が国の研究力強化という観点からみたときにそれらの大型事業がどういった流れで展開されてきたかは検討されていない。本稿では,STI分野の大型事業の目的や性格が全体として過去25年の間どのように変容してきたのかを検討する。まず,各事業を主要な政策目的に沿って「大学院COE系」「組織改革系」「国家プロジェクト系」「産学連携系」の4つの系統に分類し,それらの長期的な傾向を捉える。つづいて,各事業の公募要項や中間・事後評価要項等を体系的に参照しつつ,大型事業の形態や性格がこれまで全体としてどう変化してきたかを論じる。さらに,各事業のプログラムレベルでの事後・追跡評価の報告書等を参照しつつ,これまでの大型事業の実施状況や成果をどのように評価できるかを議論する。最後に,こうした検討を踏まえ,エビデンスに基づく大型事業の実施に向け,今後は大型事業の政策目的および評価軸の多元性を認識したうえでそれをいかに適切に設計するかが重要な論点として残されていることを指摘する。