2025 年 40 巻 1 号 p. 50-72
日本の文献データを指標とした研究力の低下傾向が指摘されている。そのため本稿においては,その改善に向けた取り組みについて海外事例を参照し考察した。日本においては,2004年の国立大学の法人化以降,特に研究力の低下が著しいと言われているが,本稿においては,国立大学を中心とした2000年代初頭以降のScopus収録文献データや財務データを参照しその変化を分析し日本の課題を明らかにした。また,米国,ドイツ,英国,イタリア,カナダ,オーストラリアの関連するデータを参照した上で,各国の大学に対する公的資金配分メカニズムについて調査分析を行うとともに,それらの日本の研究力の強化に向けたエビデンスとしての有効性についても検討を加えた。検討は,(1)研究資金の規模と財源,(2)大学間・分野間の格差,(2)公的資金配分のメカニズム,(4)研究力強化の誘因としての研究評価,の諸点において行い,今後の改善の方向性として以下を挙げた:(1)研究活動における公的資金の重要性の認識と,改善のエビデンスとなる財務情報の整備,(2)研究大学の層が薄いという現状を改善するための資金配分メカニズムの整備と,分野別の格差の問題への対応,(3)基盤的資金と競争的研究資金の関係についての再検討,(4)運営費交付金の配分における評価の,単年度および中期目標期間の双方における再検討