研究 技術 計画
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特集 いま「研究力」をどう捉えるか―エビデンスをめぐる多様な視点
大学発スタートアップが大学に対して果たす役割
長谷川 克也
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2025 年 40 巻 1 号 p. 87-97

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抄録

近年,イノベーションの担い手としてスタートアップ企業が重要な役割を果たすようになり,特に大学発スタートアップに期待が集まっている。イノベーションの担い手が大企業からスタートアップや大学にシフトしてきたアメリカの歴史を,日本は歩み始めたところだが,アメリカの大学は,民間での研究開発が大企業からスタートアップに大きくシフトした中でも,その研究力を基礎研究から応用研究にシフトさせたわけではない。

我が国の大学の研究力低下は,直近の産業競争力低下の原因としてではなく,数十年後のイノベーションのタネの減少という意味で大きな問題である。研究力低下の原因は種々論じられているが,その原因は結局のところ大学の財政基盤の脆弱さに帰結すると考えられる。この数十年の間に日米の大学の財政規模は大きな差が付いたが,アメリカの大学の財政はスタートアップを成功させた起業家からの寄附を基盤とする基金運用収入の伸びに支えられている。全米の大学における研究費の出所を分析すると,研究費の最大の提供者は連邦政府であり続けるものの,産学連携収入は大学が財源として依存できるには程遠い規模の小ささでしかなく,大学が新産業の創出に貢献したことに対する経済的なリターンは,成功した起業家による数十年後の寄附という形で実現されていることがわかる。

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2025 研究イノベーション学会
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