2018 年 43 巻 5 号 p. 555-563
目的:術前の最大ひらめ静脈(SV)径は,人工関節置換術後の新規深部静脈血栓症(DVT)発生を予測するうえで有用か,またその閾値が術部位により差異があるか否かを検討した.
対象および方法:2014年8月から2016年11月で人工関節置換術前,術後に下肢静脈エコー検査を施行した連続212例(平均年齢67±13歳,人工股関節全置換術(THA)157例,人工膝関節置換術(TKA)55例)を対象とした.ベッド横に下腿を下垂させてSVを観察し,左右SVの最大短軸径を計測した.
結果:55例(26%)に新規DVTの発生を認めた.DVT群は,非DVT群に比べ,有意にSV径(p<0.01)は拡大し,高齢(p<0.05)で,女性(p<0.05)とTKA(p<0.05)は高頻度であり,術後の血栓予防薬投与(p<0.05)は低頻度であった.多変量解析では,SV径の拡大(p<0.001),術後の血栓予防薬の非投与(p<0.01)と女性(p=0.02)が新規DVT発生予測の独立規定因子であった.術部位別の検討において,DVT群のSV径は,THA(8.6±2.6 vs. 7.1±2.1 mm, p<0.01),TKA(8.5±2.7 vs. 6.7±2.0 mm, p<0.01)ともに,非DVT群に比べ有意に拡大していた.多変量解析において,THAでは術後の血栓予防薬の非投与(p<0.05)とSV径の拡大(p=0.002)が,TKAではSV径の拡大(p=0.03)が新規DVT発生予測の独立規定因子であった.ROC曲線から求めたSV径の閾値は,THAで8.5 mm, TKAで8.4 mmと差は認めなかった.
結論:術前SV径は,人工関節置換術後の新規DVT発生予測に有用であり,その予測のための閾値は術部位で差異を認めなかった.