抄録
1970年・80代に深刻な経済不振に陥った英国では、都市再生への動きが1980年前後から顕著にみられるようになる。1980年代は中央政府の梃入れが強かった時期といえるが(第1期)、やがてニュー・ミレニアムを迎える頃には、好景気も手伝って、各都市固有の魅力を引き出しながら自力的再生がみられるようになる(第2期)。こうした経過の中で近年よく見聞きするフレーズとして‘It’s Cool Up North’がある。かつて文化・経済的格差がイングランド南部に比べて遅れをとっていた北部が、「カッコイイ(Cool)」都市として注目されているのである。英国のポスト工業都市は、再生への過程において「工業都市」から「文化都市」への転換に取り組んだことでも知られている。その「文化」については、歴史的な都市がもつ、伝統的なハイカルチャー的要素を導入していた時代から、これらの都市が潜在的にもつカウンターカルチャー的要素を文化資源として新たな特色が形成される時代となってきている。後者は第2期の特徴の一つであり、それが顕著にみられるのが北部のポスト工業都市である。そして、こうした北部都市のことを‘cool’と形容しているのである。本稿では、英国北部都市再生の事例研究としてマンチェスターの様相を考察する。