抄録
現在のもの作りでは、商品的な成功や、ユーザーにとっての使いやすさを目指す手段として人間中心設計の考え方が多く用いられるようになっている。人間中心設計の考え方を用いると、技術の種が開発されてから、その使い道を考えるアプローチであるシーズ指向と異なり、ユーザーのニーズを探る事が出発点となる。このことで、開発された機器やシステムが何のために必要なのか分かりやすくなり、技術を真に活用する事ができ、ユーザーにとっても使いやすいものになる。この考え方は、ユーザーのニーズ(嬉しいと感じる事)とモノの必要性に基礎を置いたアプローチであり、ひとつのものに対して複雑な操作が必要とされ、個人のニーズが多様化している現代にとって重要な考え方である。
記憶には1.感覚記憶、2.短期記憶、3.長期記憶の3種類がある。このうち、長期記憶に含まれる、エピソード記憶が思い出と言われている。エピソード記憶は言葉で説明でき、個人体験や出来事についての記憶である。感情と記憶の関係は複雑だが、一般に強い感情と結びついて記憶されたイベントは後々まで記憶され続ける傾向があると言われている。このことから、嬉しいと結びつく思い出からモノを提案する事で、ユーザーのニーズを満たす、嬉しいものを作れると考える。
本研究では、従来の人間中心設計のユーザーのニーズを基礎とした考え方に加えて、思い出から嬉しい出来事を抽出し、ユーザーにとって嬉しいものを提案する手法を確立することを目的にしている。更に、その提案が嬉しいものであるのかという評価を行う事で、手法の検証を行う。方法としては、先行研究を調査し、その方法を実践する。作品を制作しながら、先行研究の改善案として手法を提案し、評価を行う。