枯渇が危惧される化石燃料由来品に替わる素材開発において植物原料等の利点があらためて注目される中、塗料であると同時に造形素材でもある天然漆の多様な性質が注目され、全国各地で漆採取・生産が再開されつつある。乾漆は、麻などの天然繊維を骨材に、漆を母材とした複合素材で、繊維骨材を用いて母材を強化するという点においてFRP(Fiber-Reinforced Plastic/繊維強化プラスチック)より遙かに先駆けて実現された素材構成的に同じ発想の技法である。 本研究は天然コンポジット素材としての乾漆の構造物性に関する基礎的データを構造実験によって収集し、FRPをはじめとするさまざまな材料との比較により、サスティナブルな構造材料として造形性も含めFRPを代替しうる可能性を実証的に示すことを目的としている。また、上記データをもとに、乾漆の構造物性を用いたシミュレーションおよびその結果を活用した構造計画・設計を可能にする将来的なシステム開発を視野に入れている。本稿では上記研究計画のうち、乾漆の構造実験から得られた知見と、乾漆の伝統的な造形手法である外骨格的構成を活かす椅子のデジタルデザインおよびデジタルファブリケーション支援による実制作の過程を報告する。