抄録
本研究は、篆刻書体、中でも「鳥蟲篆(ちょうちゅうてん)」と呼ばれる装飾的な書体について調査するものである。鳥蟲篆は古代の中国で印璽(いんじ)や印章に用いられ、現代においては芸術的な篆刻作品に用いられることがある。字画を強く歪め、文字全体を変形して装飾的に作ることが特徴で、そのために文字は非常に読みづらくなっている。
印章は、王やそれに近しい官僚が用いたものである。鳥蟲篆には、名前を記すばかりではなく、その持ち主の品位の高さを表すの機能もあった。この表現は、言葉によってではなく文字そのものの造形によってなされており、鳥蟲篆の激しい歪みや装飾は、その機能に貢献していると考えられる。本研究で筆者は、鳥蟲篆の著しい変形を伴う造形のこのような効果について、文字変形の特徴や使用状況についての調査から検証を試みた。