抄録
日本を代表する地場産業「ものづくりのまち」燕三条地域には、独自のすぐれた開発・製造・販売システムが存在している。この地における「デザイン」は、当事者として自社製品に真剣に対峙し、高い技術力と探究心を持ち、商機と市場動向に敏感に反応しながら、進化し続けてきた。
しかし現在、各地の地場産業は深刻な諸問題に直面している。燕三条地域も例外ではない。さまざまな要因によって、製造現場と市場ニーズの間にコミュニケーションが分断されつつあり、当事者たちが「デザイン」について、自分ごととして捉えられなくなりつつある。
そこで、長い時間をかけて閉鎖的な環境で育まれつつ、幾多の困難を生きのびてきた、燕三条の当事者デザインに注目する。中でもデザイナー職ではない企業の経営者や従業員が達成してきた、この地域特有のデザインプロセスには、メイド・イン・ジャパン「デザイン思考」と呼ぶべき、ものづくりへの根源的な情熱と思想体系、および有益な手法が潜んでいる。
その価値と可能性を正しく示すことによって、地域の企業や人々は「デザイン」の新たな意味に気づき、当事者デザイナーとなる。課題解決とイノベーションに向けて歩み始める。