2020年、福岡の夏の風物詩であり博多の一大イヴェントである「博多祇園山笠」が中止となった。毎年「山笠」でにぎわう博多の旧中心街は、かつて伝統工芸士が活躍する町家だった。しかし、時代様式の変化でほとんどの工房が姿を消し、町の活気が歴史の1ページにすぎなくなった矢先、新型コロナ感染症が拡大し、博多の町家は瀕死状態に陥った。高齢者の居住比率が高い博多町家の時間は止まり、人々の当たり前の日常まで姿を消した。
発表者は活気に満ちた時代の博多の町家生活の記録を後世に残す目的で、モノクロ写真のカラー化ワークショップを行なった。ワークショップを通じ、高齢者と学生の交流が生まれ、忘却の淵にあった記憶や先人から伝え聞いた話が鮮やかな色彩を纏って蘇った。カラー化は歴史資料を生活者の生の記憶に変換させる力を持っている。この試みは、第三者として受容していた記録や伝聞を当事者の疑似体験へと変換し、過去の生々しい庶民生活を記録する研究の基礎作りとなった。