「遺影とはどうあるべきか」という形式や体裁に対する問いから「どこまでの独自性なら許容されるのか」という表現における問いの中で試行錯誤した遺影制作の経験から、依頼主である遺族の意向を重視し、ある程度既定の形式に沿って、葬儀までに完成が要されるという時間制限の中で制作される「遺影写真」とは、デザイン的仕事だという考えを筆者は持っている。今回の発表は、アイデンティティ・ポートレートと呼んでいるコンピュータグラフィックスによる故人の肖像画の制作活動から「今は亡き人を描く」という行為にはどんな意味があるのかという問いに立ち、故人の肖像写真として知られる「遺影」制作が日本においてどのような意義をもつのかを考察することで、「故人の肖像画」と「遺影」との差異や共通点を探るものである。依頼をうけて始まる、いわば外から起こる制作と、美術作品のようにアーティストの内から起こる制作について、その差異や類似性から、ひいてはアートとデザインの領域の交差点について考察する。