本稿は、明治時代における美術の社会的通念の形成過程に関する研究の端緒として、テキストマイニングを用い、明治期の新聞にみられる美術をめぐる社会的関心や世論の焦点を概観した。その結果、草創期の美術に関する記事のなかには、さまざまなコンテンツが登場していたが、最も社会的関心が寄らせていたのは絵画であることが明らかとなった。なかでも、西洋画より日本の絵画に対する社会的関心が高まっており、当時の社会において「日本の美術」とは何かという問いへの好奇心が抱かれていたといえよう。それは、明治政府が明治中期から帝国文明の象徴として美術を捉え、日本文化のアイデンティティを確立するためにさまざまな文教政策を推進したことと密接な関係があると考えられる。また、新聞で報じられた裸体画論争は、表面的には西洋の「美」と日本の伝統道徳観との対立であったが、実際には日本における美術の価値観に関する社会的共同の模索であり、以降の美術に関する明確な価値体系の確立に寄与した。