デザイン学研究
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昭和戦前期の地方のデザイン活動〜漆器を事例にして : 地方試験研究機関による工芸振興に関する研究項目の分析
比嘉 明子宮崎 清
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1997 年 44 巻 2 号 p. 19-28

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抄録

昭和戦前期の地方試験研究機関の研究活動は、その研究項目の傾向から、「染織工業」「窯業」「其の他の工業」などの軽工業に重点が置かれていたことが明らかになった。特に、「其の他の工業」は、その地方の在来の技術を基礎にした工芸産業を対象にした試作・応用研究が中心であった。このうち、漆工に関する割合が全体の約3割を占めたが、これは当時、商工省が積極的に推進した漆器の輸出振興と連動したと考えられる。地方試験研究機関における漆器の研究は、当時指摘されていた輸出漆器の欠点を補うことを目的とし、製作工程の合理化や新材料の応用研究を中心に行なわれた。その試作品のデザインは、いわゆる「輸出向」であり、国際化を目指し、従来の漆器の「古イ衣」なるイメージを払拭しようとするものでもあった。また、それは単なる「雑貨」であった輸出漆器からの脱却を図ろうとする努力の結果でもあった。この動きは「地方のデザイン活動」のはじまりともいえる。しかし、その姿勢は、あくまで輸出先の嗜好への適合化に腐心し政府による指導を待つものであり、独自のデザイン力としては未熟であった。

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© 1997 日本デザイン学会
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