抄録
山岳部・化北面の民家における伝統的な苞の文化を、制作・使用の両面から観察・考察した。その結果、次の特質を導出した。(1)地域内自作:生活に必要な苞は家々で自作された。(2)環境対応の素材活用:稲藁とともに、萩、萩の皮、玉蜀黍などが苞づくりの素材として活用された。(3)地理的条件対応の形態:起伏の多い地形での乾燥・運搬・収納などの行為に対応した苞の形態が工夫された。(4)生活空間構成対応の使用秩序:ドジャンを有する家は苞のほとんどがドジャンに収納されたが、ドジャンをもたない家は軒下空間などが苞の収納に当てられた。(5)地域における経済力の象徴:苞の所有状態は、そのまま、個々の家々の経済力を象徴していた。(6)信仰対応の規範:さまざまな神を屋敷空間に祀り、穀物を容れた苞が神との交信の媒体となった。(7)人間関係の調整:苞の貸し借りが行われ、苞が家々を結びつける役割を果たしていた。(8)資源循環型活用の秩序:すべての苞が補修・転用され、最終的には土に戻された。