2014 年 61 巻 2 号 p. 2_67-2_76
本研究は、1909(明治42)年に福岡県大川市に竣工した「旧三潴銀行」の保存修復計画について、筆者が行った実測調査資料と、明治期の煉瓦造西洋建築の文献などを照合した考察を行っている。その結果、今後の保存修復の基本方針策定に資する次の知見を得た。第1 は、「旧三潴銀行」は、福岡県の明治期における煉瓦造セメント漆喰塗り意匠の建築として、またこの時代の煉瓦造銀行建築として、唯一現存する。第2は、煉瓦造基礎地形、煉瓦積モルタル、石造風セメント漆喰、内壁漆喰、ワニスとペンキなど、建築当初の仕様を同時代の煉瓦造事例と照合できた。第3は、復原が可能な対象として、天然スレート屋根、金庫室鉄扉、営業室カウンター、玄関扉、建具や照明金物などを指摘できた。そして第4には、「旧三潴銀行」の西洋建築資材と意匠を指導協力できる立場の設計者は、類似した西洋建築の設計を経験していた、福岡県の土木課建築主任の技手西原吉治郎である可能性を推定できた。