デザイン学研究
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61 巻, 2 号
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  • ―日本のセダンのプロポーションの変遷に関する研究(その1)
    林 孝一, 御園 秀一, 渡邉 誠
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_1-2_8
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     日本の代表的なセダンの全高の推移において'80年代半ばに減少から増加に転じ、更に'90年代後半から2000年初頭にかけ100mm近くも急増する特異性を指摘した。その因子を抽出し、将来の自動車デザインのための知見を得ることを目標とした。全高の変化の様子から、1954年から2012年までの期間を4つに分け考察を行った。その結果、道路環境の変化、スポーツカーや帽子着用等の流行すたり、車自体の構造変化、プレス技術の進化、ユーザーの車への要求の変化、石油高騰と環境問題の悪化、エコカー減税や補助金政策の影響など、時代による各因子の影響で全高は特異な変遷を示したことが推定された。特に新たな快適性の提案をしたプリウスの影響が最も大きかった。一方、全高/全長というプロポーションの値で見ると、時代変化には左右されにくい、人が受容し得るセダンとしての領域、更には各車格毎の領域が存在する可能性が見えてきた。この領域の中央値を高級セダン、小型セダン、大衆セダン毎に導出した。
  • ―日本のセダンのプロポーションの変遷に関する研究(その2)
    林 孝一, 御園 秀一, 渡邉 誠
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_9-2_16
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     戦後、国内の主なセダンの全幅は大きくは拡大の一途を辿り現在に至っている。唯一、道路運送車両法における「小型自動車」枠の寸法の影響が見られる。一方、1975年以降の燃費規制の影響は、全幅の燃費に及ぼす影響が小さいためほとんどなく、特定の車種での全幅と燃費性能の推移の比較もそれを裏付けている。この様に燃費への全幅の影響が少ないため、室内空間の拡大及び外形の安定感あるプロポーションの追及が重視され全幅は拡大し続けている。一方、全高/全幅の正背面でのプロポーションで見ると、サイドの全高/全長の値と同じ推移であった。即ち人がセダンとして受容し得る全高/全幅の値の範囲が0.81から0.87と考えられ、そこを中心に時代により多少上下し推移している。しかし全高/全長の様に高級車、小型車、大衆車と車格毎の固有値は存在しない。また競合上、全幅の拡大が抑止し難いことは原油高騰や環境問題への対応の必要性と相容れない矛盾である。現在のセダンと軽自動車のシェアの大きな差は、この様なセダンの更なる減少を示唆するものと推測する。
  • 林 孝一, 御園 秀一, 渡邉 誠
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_17-2_26
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     トヨタ自動車のデザイン部門の現在までの組織やデザイン手法等の変遷を5つのフェーズに区分し解析した。第1フェーズは1933~'48年でまだデザイン組織やプロセス、手法も無い期間であった。第2フェーズは'48~'56年で工芸係が誕生したがプロセス、手法はまだ試行錯誤を繰り返していた。第3フェーズの'56~'73年は'56年の米国アートセンターの来日デザイン講習会でのデザイン手法と材料に衝撃を受け、その手法を吸収しデザインの組織も確立していった。第4フェーズの'73~2003年は海外や国内にデザイン拠点を拡大した時期であった。また車種の多様化で'92年には効率化のための組織変更となった。第5フェーズの'03年~現在はデザインフィロソフィー策定等ブランド戦略強化の組織編成へと移行した。以上、モノ造りの組織は当初、開発手法によりその存在意義が左右された。近年は、時代と共に変化する多様化やブランドイメージ強化等の製品に求められるニーズに合わせ組織が変化したことを明らかにした。
  • 岡 達也
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_27-2_34
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     本稿は、京都高等工芸学校図案科における図案教育とデザインの現場への波及の実態を明らかにする研究の一環として、1908(明治41)年に同科を卒業した水木兵太郎著作の図案集『アブストラクトパターン』(芸艸堂刊)について、モチーフ、色彩、レイアウト方法といったグラフィックデザインの側面から分析し、その特質を明らかにすることを試みた。
     分析の結果、水木の図案制作における特徴を次の3点に結論付けた。①数理的・幾何学的な画面構成。②補色の関係を多用した配色。③円と正方形を基本単位とし、その相似形による面の分割。以上から、当図案集で水木が、数学的に秩序立てた制作方法をとっていたことを明らかにした。
     また、同時代の著作物であるM.P.ヴェルヌイユ著作の『Kaleidoscope』との比較を通して、当図案集への影響とともに、日本で早い時期にアール・デコや構成主義を受容し、図案における抽象表現として提示したものであることを指摘した。
  • ―民具の形に見る力学的合理性(2)
    久保 光徳, 北村 有希子, 田内 隆利, 寺内 文雄
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_35-2_38
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     人が自然発生的に生み出してきた形の一つであると言える民具形態に注目し,その形に潜在すると思われる力学的合理性を解明することを研究目的として,新潟県中魚沼郡の津南町歴史民俗資料館に所蔵されている踏鋤の一種である国指定民俗資料「エングワ」の形状に見られる力学的特徴の抽出を試みた。生活の中に置いて自然発生的に生み出されてきたと思われる形態の特徴の一つと言える力学的な合理性の有無についての検討をこのエングワ形状に対して実施した。三次元デジタイザによる形状測定,CADによる断面形状の検討,有限要素法に従った構造解析,梁理論に従ったエングワ形状と曲げモーメント分布,および曲がりにくさの指標となる断面二次モーメントとの対比を通して,この形状が実使用時に発生すると思われる力学的および幾何学的境界条件に対して適切な形状を有しており,この形態が力学的合理性を有しているものの一つであることを確認した。
  • 松岡 慧, 松井 俊太郎, 佐藤 浩一郎, 松岡 由幸, 小木 哲朗
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_39-2_48
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     前報において,筆者らは,絆の継続・深化に向けたEメールシステム「KIZUNA Visualizer」のプロトタイプを開発した.このシステムは,セルラ・オートマトンを用いることで送受信頻度に伴いアイコン形状を変化させ,絆の状態をユーザに気づかせることを狙いとしている.しかし,アイコン形状の印象変化にはまだ改良の余地が残っていた.
     そこで,本報では,そのアイコン形状変化の操作パラメータに注目した.このパラメータは,アイコン形状を不安定な棒状や板状から安定的な印象をもつ塊状に変化させる機能を有している.そのため,このパラメータのさまざまな設定値により変化したアイコン形状の印象評価実験を行った.その結果,同パラメータに関して,切り替え前を0.6,切り替え後を0.9にすることで多くのユーザに対して的確な印象変化を与えることが可能になることが判明した.
  • 松田 典子, 岡田 明, 山下 久仁子
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_49-2_56
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     本研究では、ソフトキーボードを利用し、マウスとタッチパネルの2つの入力デバイスを用いて、携帯配列、キーボード配列、五十音配列の3つの入力配列における視線と手の動きとの特性を明らかにすることとした。視線と手の動きは、最速型、共迷型、確認型、探索型、一時停止型、先行型、及び最速型と確認型を合わせた複合型の7つの型に分類された。入力デバイスであるマウスとタッチパネルの使用による型の生起頻度に有意差はなく、入力配列と型においては、入力配列により型の分布が異なる傾向がみられた。これらの結果から、本実験の設定条件下では、視線と手の動きとの間に、主導、追従というような明確な関係は認められなかったが、入力配列により注意を向けるところが異なり、視線と手の動きにおいて各々に異なる反応として現れるのではないかと考えられた。
  • 前川 正実, 山岡 俊樹
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_57-2_66
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     ユーザーの要求を取得しこれを実現するための要件を定める活動は,役立つ人工物をデザインするためのひとつの基盤である.要求・要件の取得には複数の方法があり,デザイン活動の段階に応じて選ばれる.本研究では,デザイン実務に役立つ知見を得ることを意図し,調査から評価までのデザイン過程における要求・要件の取得方法の特性について,自転車のデザイン活動を対象に考察した.考察した方法は,ユーザーの利用実態の非交流的観察,既往アンケート調査のレビュー,利用状況の分析的想定,機能試作車の走行実験,来店客への非構造的インタビュー評価である.考察の結果,利用状況の分析的想定の有用性と限界,プロトタイピングを行なう場合の留意点等,各方法の特性に関する知見を得られた.デザインされた自転車は目的との整合性があり,日本における自転車利用促進に資する可能性があることが確認された.
  • 明治期の煉瓦造西洋建築の保存修復に関する基本方針
    工藤 卓
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_67-2_76
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     本研究は、1909(明治42)年に福岡県大川市に竣工した「旧三潴銀行」の保存修復計画について、筆者が行った実測調査資料と、明治期の煉瓦造西洋建築の文献などを照合した考察を行っている。その結果、今後の保存修復の基本方針策定に資する次の知見を得た。第1 は、「旧三潴銀行」は、福岡県の明治期における煉瓦造セメント漆喰塗り意匠の建築として、またこの時代の煉瓦造銀行建築として、唯一現存する。第2は、煉瓦造基礎地形、煉瓦積モルタル、石造風セメント漆喰、内壁漆喰、ワニスとペンキなど、建築当初の仕様を同時代の煉瓦造事例と照合できた。第3は、復原が可能な対象として、天然スレート屋根、金庫室鉄扉、営業室カウンター、玄関扉、建具や照明金物などを指摘できた。そして第4には、「旧三潴銀行」の西洋建築資材と意匠を指導協力できる立場の設計者は、類似した西洋建築の設計を経験していた、福岡県の土木課建築主任の技手西原吉治郎である可能性を推定できた。
  • 輸入金属製打出天井板と室内意匠設計者をめぐって
    工藤 卓
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_77-2_84
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     「旧三潴銀行」(1909(明治42))などの明治西洋建築に見られる、アーツ・アンド・クラフツないしはアール・ヌーヴォーの装飾図柄がデザインされた金属製打出天井板の来歴と詳細については、これまで解明されていなかったが、同種の建築資材である「濠州製鋼鐵製特許天井板」が、東京の藤原商店によって輸入され、東洋一手販売されていたことが判明した。また当時の建築学会機関誌「建築雑誌」には、この天井板を採用した西洋建築の複数の事例が報告されるなど、装飾意匠要素として注目された建築資材であったことも判明した。こうした考察から、「旧三潴銀行」の輸入金属製打出天井板の導入とその室内意匠の指導には、「旧福岡県公会堂貴賓館」に同種の天井板の導入実績がある福岡県の土木課建築主任技師であった三條栄三郎の協力があったのではと推定している。
  • ―台湾大甲地域における内発的発展に関する調査・研究(1)
    陳 香延, 植田 憲
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_85-2_94
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     大甲藺工芸は,台湾中西部の大安渓流域に自生する特有の藺草の一種である大甲藺を素材として,当該地域で制作され使用されてきた生活工芸である。当該地域の人びとによって,大甲藺が発見され,それを素材とした大甲蓆がつくられてからの歴史のなかで,大甲帽子,煙草入れなどのさまざまな生活用具が制作され,産業としての繁栄を遂げるに至った。文献調査,現地調査に基づき,以下の結論を得た。(1)大甲藺工芸の発展の礎は,台湾大甲地域の人びとの生活のなかで,大甲藺という材料が発見され,その利活用方法のみならず,より良質な材料をつくり出すための工夫が,人びとの手でさまざまになされたことにある。(2)大甲藺工芸は,当該地域の人びとの生活のなかで全体活用が徹底されるなど,生活との密接な関連のなかで発展してきた,まさに当該地域の生活文化を代表する存在である。(3)大甲藺工芸は,当該地域の人びとを結びつける重要な媒体であった。
  • ―ヘッドマウントディスプレイを使用した音の可視的研究(1)
    須藤 正時, 深谷 晃輔
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_95-2_102
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     本研究は透過型情報提示における歩行時の安全性を反応時間と認知負荷を基準に検討するものである。評価実験1では健常者を対象に音の種類,方向,後方視界の情報を用いた屋内でのモデル実験による事前検証を行った。その結果,危険回避に対する人の知覚反応時間 0.7~1秒程度を安全の基準として,音の種類,方向に対する反応時間に遅延はなく透過型情報提示の安全性が確認できた。評価実験2では聴覚障害者と成人を対象に音の種類,方向の情報を用いて実際の使用環境に近い模擬評価実験を行った。屋外で歩行しながら透過型情報提示を利用する場合,個人によっては反応時間の遅延が見られ,安全性が誰にでも確保されるものではないことが明らかとなった。 
  • 小林 茂雄, 中嶋 聡, 小林 美紀
    2014 年 61 巻 2 号 p. 2_103-2_110
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル フリー
     本研究は、視覚を完全に遮断した空間で協同造形作業を行う際、どのような対人協力行動やコミュニケーション効果が得られるかを実験的に検討した。幼稚園児から大学生までの被験者実験で得られた主な結果を以下にまとめる。 1)暗闇では明所の作業に比べ、声が大きく、発話量が増える傾向にあった。暗闇では初対面同士でも発話が増えることと、小学生以下の低年代の方が声が大きく発話が増える傾向にあった。 2)暗闇では明所に比べ、他者との協同作業が顕著に観察された。協同作業が、低年代では身体接触によって、高校生以上の高年代では言語によるコミュニケーションによって、より活性化されていた。 3)暗闇での協同作業は困難であったと被験者に評価されたものの、視覚が働かないことの非日常性による楽しさや、他者と躊躇なく関われるなどの対人行動に対する障壁の低さが言及された。
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