2024 年 71 巻 2 号 p. 2_25-2_34
本研究は,江戸時代を通じてみられる文字模様染織のうち,江戸時代前期に流行した寛文小袖における文字模様および文字散らし模様と,後期に流行したとされる反故染模様の比較を通じて,図案構成上の文字の視覚効果について論じるものである。本論では,各文字模様を「構図指向性」と「運筆集積性」という二つの側面から考察し,その結果を軸としてこれら要素が各文字模様の変遷において果たす役割について分析した。比較を通じ,江戸時代前中期の寛文小袖における文字模様および文字散らし模様では文字は絵模様に調和し,構図指向的な画面が見られること,一方,江戸時代中後期の反故染模様では文字は運筆集積性が強調され,複雑な視覚効果を示していることを明らかにした。以上から,本論では,構図指向性と運筆集積性というキーワードが文字模様と呼称される各模様群における文字の在り方を論じる際に重要な指標となりうることを述べた。