2025 年 71 巻 4 号 p. 4_41-4_50
本稿は,中国江蘇省南京市佘村における歴史的建造物・潘氏祠堂を対象として,文献調査,現地調査に基づき,建造当初の内部空間の構成要素,構成する材,装飾文様を再現し記録するとともに,その構造と空間特質を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の知見が得られた。(1)潘氏祠堂には水平方向ならびに鉛直方向の空間秩序が存在していた。門堂,享堂,寝堂は奥に行くほど高位であり,それに伴い床面や屋根などが高くなっていた。(2)門堂,享堂,寝堂の順に「陰から陽へ,陽から陰へ」と変化する「陰陽交替」の空間配置が存在していた。(3)奥に行くほど材料の使用量が多く質も高くなり,実際の用途に適した材料が用いられていた。(4)日常・非日常の両面において人びとが集まる享堂は,耐荷重性能が高い床材が使われるとともに,吸音性能が高い空洞壁にされるなど用途に則した構造となっていた。(5)奥に行くほど文様が多く,また,空間に応じて異なる意味を持つ文様が配置された。このように,同建造物は道徳・倫理観を共有する役割を果たしていた。