抄録
高校生物の教科書は、生物種間の共通事項に着目して編集されており、各分野は難易差が無く、並列的に記載されている。このことは、どの分野からでも取り組むことができるという長所がある一方で、各分野の結びつきが弱いという短所もあり、これを克服する教材が必要である。トノサマガエルの消化管は、幼生期から変態期にかけて長さが約1/10に短縮し、食道・胃・腸へと分化していく。この過程は、簡単な解剖の実施により、順を追って観察することができる。さらに、組織標本を光学顕微鏡で観察することにより、形態形成の過程を細胞学的・組織学的に理解することができる。また、トノサマガエルは、ヒトと同じ脊椎動物であり、器官の分化においては共通点が多く、一般的な消化管の構造と機能の関係を認識できる。さらに、その構造は変態に伴う食性の変化と対応しており、「生態系」などの他分野で話題に挙げることもできる。このように、トノサマガエルの消化管を用いれば、高校生物の多くの分野を有機的に結びつけることが可能である。