2019 年 78 巻 1 号 p. 3-14
福島県南相馬市小高区井田川地区における過去1万年間の環境変遷とエスチュアリー埋積堆積物中に含まれるイベント堆積物の識別をおこなうことを目的として,完新統を掘り抜き鮮新-更新統の大年寺層に達する長さ14.45mのボーリングコアを掘削した.採取した試料のコア記載に基づき堆積相を設定し,軟X線写真撮影,粒度分析,14C年代測定の結果を総合し古環境の変遷およびイベント堆積物の供給源について考察した.(1) 10,000-8,500cal. yr BP: 最終氷期後の海進に伴い,研究地域は後浜から泥質および砂質潮汐平底の環境へと変化した.(2) 8,500-6,000cal. yr BP: 縄文海進の最盛期にはエスチュアリー中央盆地の環境が成立した.(3) 6,000cal. yr BP-現在: その後の海退によりエスチュアリーは縮小し,しばし離水する塩水湿地となった.2011年3月11日に津波が襲来するまでの100年間は水田として利用されてきた.塩水湿地中にはイベント砂層が挟在しており,それらは海成の貝化石やリップアップクラストを含む.また,葉理構造や級化構造をなすことからそれらの砂層は津波堆積物である可能性が高い.イベント砂層の形成周期はおよそ600年から650年間隔と見積もられ,仙台平野で推定されている津波の襲来周期と一致する.