抄録
圃場レベルで実測した土壌侵食量の結果を流域レベルに拡大して適用すると問題が発生することが多い.すなわち,流域内で生起している複雑な水文現象から,圃場レベルの土壌侵食量と流域スケールで測定した侵食量は一致しないことが多い.そこで,インドネシア国ランポン州のコーヒー樹が栽培されている地域を対象に,圃場レベルと流域レベルでの土壌侵食量を実測することを目的として,10.2 ha の試験流域と,その流域内に 75 m2 の試験圃場を 7 試験区設けた.試験圃場の構成は,(a)裸地区(対照区),(b)自然植生区,(c)雑草を完全に除去したコーヒー栽培区,(d)圃場面を Paspalumcon jugatum(以下 PC)によって被覆しコーヒー樹の回りのみを除草したコーヒー栽培区,(e)等高線方向に PC を帯状に移植したコーヒー栽培区,(f)圃場面を自然植生の雑草(以下,NM)で被覆しコーヒー樹の回りのみを除草したコーヒー栽培区,(g)等高線方向に NW を帯状に移植したコーヒー栽培区,である. 1 年半の実測結果から,圃場試験区からの土壌侵食量は,0.12 t ha−1((b) 自然植生区)から 0.87 t ha−1 ((a)裸地区)の範囲にあった.一方,8 ヶ月間の雨季における試験流域からの土壌流出量は 6.7 t ha−1 であった.以上の試験結果から,流域レベルにおける単位面積当たりの土壌侵食量は,圃場レベルの侵食量の 10 倍以上の値を示した.これは,流域からの土壌侵食量は,ガリ侵食,地滑り,流域内の水田からの土壌侵食に起因すると想定される.以上のことから,現在,耕地からの侵食対策に重点がおかれた土壌保全は再考すべきであり,他の土壌侵食発生源にも対策を講じ,下流への土壌流出を削減しなければならないことを示唆している.