2011 年の東日本大震災時の原子力発電所の事故で飛散した放射性物質の除染は今も継続している.事故で放出された放射性 Cs は,地表近傍に集積し,土壌下方への移行は遅いものと考えられているが,いくつかの現地調査では,速い移動も報告されている.本稿では,Cs の速い移動に関わる要因について既往の研究成果からの情報収集を中心に検討した.イライトやバーミキュライトの端面に生じる FES は,非常に強く Cs を保持する.ただ,FES に個々の Cs 原子が到達するまでに時間を要すると考えられ,その間に水流など移動現象があると,平衡実験で得られた結果とは異なる現象が生じる可能性がある.一方,土壌中の溶存有機物は,Cs の FES へのアクセスを阻害することで,移動性を高める可能性が示唆される.