抄録
従来の深層学習モデルを用いた物質移動現象の解析では,予測値が支配方程式などの物理条件に従うとは限らない.そこで,深層学習モデルを構築する際に,予測値と学習データとの誤差を評価する予測損失項だけではなく,支配方程式や初期・境界条件と矛盾しないかを評価する物理損失項を損失関数に加えたものがPhysics-Informed Neural Networks(PINNs)である.従来の数値解析による不飽和土壌水分特性の逆解析は,境界条件や初期条件などの適切な設定が求められる.そこで,柔軟な条件設定が可能な技術の一例として, PINNs を用いた逆解析手法がある.土壌水分に関する学習データとリチャーズ式を物理損失項で与えたPINNs は,土壌水分分布の経時変化や不飽和土壌水分移動特性の分布を予測できる.本解説では,PINNs による不飽和水分移動の順解析および逆解析の例を示した.最後にPINNsを用いた土壌物理分野の既往研究の成果と今後の課題をまとめる.