抄録
われわれは、絹タンパクを用いた皮膚潰瘍治療剤の開発を試みており、すでにフィブロインにヒトの皮膚線維芽細胞の増殖促進作用のあることを見出している。今回セリシンについて、同様の生理活性があるかどうかをしらべた。 セリシンは家蚕繭層から2M尿素100℃5分間加熱で抽出し、エタノール沈澱、9Mチオシアン酸リチウム再溶解、透析脱塩により調製した。生理活性の測定には、ヒト皮膚の正常線維芽細胞を用い、セリシンをコートしたシャーレで48から72時間培養したのち、細胞数を色素還元法で測定し、セリシンなしの対照と比較した。セリシンを平方センチあたり2.5から25μgコートすると、細胞の増殖は対照の250%まで促進された。培養基質として通常用いられるコラーゲンは、同様の条件で300%の増殖を示した。平方センチあたりのコート量を0.25μgまで下げると、コラーゲンでは活性があったが、セリシンの効果はみられなくなった。さらにセリシンの主成分(400、250、150 kDa)を分離精製して活性を測定したところ、400 kDaの成分のみが細胞増殖促進作用をもつことがわかった。