抄録
【目的】水溶性ビタミンであるビオチンの腸管からの吸収には、特異的な輸送担体が介在することが比較的古くから知られているが、最近になってビオチンの他にパントテン酸を基質とするNa+依存性マルチビタミントランスポーター(SMVT)がその分子的実体である可能性が指摘されている。本輸送担体と薬物吸収との関わりはほとんど明らかにされていないが、我々は先にラットからクローン化されたSMVT(rSMVT)によるビオチン取り込みをカルバミド系薬物が阻害することを報告した。そこで本研究ではヒトからクローン化されたSMVT(hSMVT)の機能解析をすすめ、薬物吸収との関わりを探ると共に基質認識の種差(ラットとの違い)を探ることにした。
【方法】hSMVTのcDNAをpCI-neo vectorに組み込み、エレクトロポレーションによってCHO細胞に導入し、抗生物質で選別して安定発現細胞を得た。細胞は、常法に従い10 %FBS含有F-12培地を用いて培養した。12-well plateに細胞をまき(1×105 cells/well)、48時間培養後の[3H]ビオチンの初期取り込みについて各種カルバミド系薬物の影響等を検討した。
【結果・考察】hSMVTのcDNAの導入により、CHO細胞によるビオチンの取り込みは顕著に増大し、SMVT介在性のビオチン取り込みが確認された。このビオチン取り込みは、カルバミド構造を有する尿素によって有意に阻害されたが、同構造を持つフェノバルビタールでは阻害されなかった。しかし、先に報告したrSMVTによるビオチン取り込みは尿素だけでなくフェノバルビタールによっても顕著に阻害されたことから、SMVTによる基質認識に種差があるものと考えられた。さらに、他のカルバミド構造を有する薬物の影響もあわせて報告する。