抄録
【目的】Breast cancer resistance protein(BCRP/ABCG2)は、肝細胞胆管側膜や小腸上皮細胞管腔側膜など正常組織にも発現しており、生体内における機能が注目されている。近年、in vitro実験により、BCRPには輸送機能に影響すると考えられる遺伝子多型が存在することが報告されており、遺伝子多型が基質薬物の体内動態の個人差に関与することが考えられるが、in vivoでの機能への影響については不明な点が多い。そこで本研究では、ヒト胎盤におけるBCRP遺伝子の多型解析を行い、蛋白発現量との関連について検討を行った。さらに、胎盤で同定したalleleについて人種間での頻度解析を行った。【方法】日本人女性100名の胎盤組織からゲノムDNAを抽出し、PCR-SSCP法による変異のスクリーニング後、ダイレクトシークエンス、サブクローニングならびにPCR-RFLP法により塩基配列の同定を行った。さらに、Western blotにより蛋白発現量を測定した。また、胎盤組織で同定したalleleの頻度解析は、日本人120名およびCaucasian150名、African150名の末梢血から得たゲノムDNAを用いてPCR-RFLP法により行った。【結果】胎盤組織における多型解析の結果、BCRP翻訳領域において、6箇所のアミノ酸置換を伴うalleleを同定し、C421A(Q141K)では胎盤における蛋白発現量が低下する結果が得られた。非翻訳領域における変異は、これまでに報告されている転写因子結合部位上には認められなかった。また、人種間における頻度解析の結果、G34A(V12M)とC421A(Q141K)は日本人において高頻度に認められた。現在、基質薬物を用いたin vivoでの機能評価について検討を進めている。