抄録
症例は57歳男性.一過性の構音障害と右半身の運動感覚障害の精査目的で入院となった.身体所見では左上肢の血圧126/72 mmHg,右上肢70/52 mmHgと左右差を認め,右橈骨動脈の拍動を触知できず,右鎖骨上窩に血管雑音を聴取した.頚部血管超音波検査にて右椎骨動脈の逆流を認め,血管撮影では腕頭動脈に90%の狭窄と左椎骨動脈から右椎骨動脈への鎖骨下動脈盗血現象を認めた.また左内頸動脈サイフォンC2部の70%狭窄と左中大脳動脈後半部領域の血流低下が存在し,これらの領域へは左後大脳動脈から側副血行による潅流が認められた.以上の脳循環状態から腕頭動脈狭窄部に対し血管内治療(経皮的血管形成術,ステント留置術)を実施したところ,その後は一過性脳虚血発作が消失した.本例では腕頭動脈狭窄に起因する鎖骨下動脈盗血現象が後大脳動脈から側副血行で補われていた左中大脳動脈後半部領域の血流低下を助長し,一過性脳虚血発作の原因になったと考えられた.