脳卒中
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31 巻, 3 号
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原著
  • 井口 保之, 木村 和美, 鈴木 幸一郎
    2009 年 31 巻 3 号 p. 141-147
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    【背景と目的】本研究の目的は,急性期脳卒中患者の受け入れ体制の現状とその問題点を明らかにすることである.
    【方法】全国の8,569病院にアンケートを送付し,急性期脳卒中患者の受け入れ体制について調査した.
    【結果】4,690施設(54.6%)から有効回答を得て,うち急性期脳卒中診療を実施している病院は1,466施設(31.3%)であった.24時間365日t-PA療法が可能な病院は519施設(11.1%)であり,うち脳卒中診療専門医師5人以下の病院は326施設(63.6%)であった.脳卒中診療専門常勤医師が2人の施設ではt-PA療法可能20%,5人では50%,さらに11人以上では90%を超えていた.
    【結論】急性期脳卒中患者受け入れ体制の問題点は,脳卒中診療専門医師数の不足である.
  • 平岡 千穂, 前島 伸一郎, 大沢 愛子, 金井 尚子, 関口 恵利, 棚橋 紀夫
    2009 年 31 巻 3 号 p. 148-151
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    脳卒中急性期にベッドサイドでの嚥下スクリーニング検査や臨床評価と,嚥下造影検査(VF)の関連性について検討した.対象は初期評価で摂食・嚥下障害を疑われ,VF検査を施行した132名(脳梗塞94名,脳出血23名,くも膜下出血15名)で,年齢は35∼97歳であった.これらの患者に対して,反復唾液嚥下テスト(RSST)と水のみテスト(MWST)を行い,同時期の神経学的所見やVF結果との関連について検討した.その結果,全体の32.6%で,ベッドサイドスクリーニングとVFでの所見に乖離を認め,VFの所見と臨床所見の比較から,嚥下障害を予測しうる臨床所見としては,認知機能低下,頚部体幹の不安定性,咽頭反射の異常,失語症の存在が挙げられた.このことから,特に急性期においては,認知機能や身体機能の低下を認める患者,および咽頭反射に異常を認める患者では,RSSTやMWSTを過信せず,積極的に嚥下障害を疑い,VFなどの精査を進める必要があると思われた.
  • 松本 勝美, 山本 聡, 鶴薗 浩一郎, 竹綱 成典
    2009 年 31 巻 3 号 p. 152-156
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    [背景,目的]椎骨脳底動脈閉塞は発症より6時間以上経過して診断されるケースが少なくなく,血栓溶解を施行するかどうか判断が困難な症例が多い.今回椎骨脳底動脈閉塞例に対し血行再建を行った例について,再開通の有無,重症度および治療開始時間が予後に及ぼす影響を検討した.
    [症例と方法]当院での椎骨脳底動脈閉塞に対する血行再建は発症時間にかかわらず,diffusion MRIで梗塞の面積が20 ml以下または脳幹全体が高信号になっていない例としているが,該当症例は19例あり,12例は発症6時間以内に血行再建が行われ,7例は発症6時間以降に血行再建が行われた.各群について初診時NIHSSと3カ月後のmRS(modified Rankin scale)の関連性を検討した.再開通の評価はTIMI分類で施行した.統計はmRSと年齢,再開通までの時間,NIHSSは分散分析を行い,開通の有無とmRSは分割表分析を行った.
    [結果]予後は再開通の有無が最も影響し,TIMI分類のGrade 3∼4の11例中9例でmRSが3以下であったが,Grade 0∼1では全例mRSが4以上であった(P<0.01).発症時間,受診時NIHSS,年齢と予後の関係は有意差は認められなかったが,mRS 0∼1の4症例はいずれも発症3時間以内の再開通例であった.
    [結論]椎骨脳底動脈閉塞は発症時間にかかわらず,diffusion MRIで広範囲に高信号を呈さなければ血栓溶解療法の適応はある.発症時間からの経過にかかわらず再開通後の予後は比較的良好である.神経症状を残さない結果を得るには発症3時間以内の早期再開通が望ましい.
  • 角田 朗, 大野 津介, 丸木 親
    2009 年 31 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    【目的】当院における過去10年間の脳卒中診療の,内容とその変化について総括した.【方法】1997∼2001年までを前期,2002∼2006年までを後期とし,疾患分布や診療内容について検討した.【結果】総患者数は2,699人(前期1,238・後期1,461),疾患の内訳は虚血性(CI)/脳出血(ICH)/クモ膜下出血(SAH)が前期・後期でそれぞれ59.2%/26.5%/14.3%・62%/24.2%/12.9%であった.治療内容での変化は動脈瘤治療における血管内手術の増加(10%→25%)と,超急性期脳梗塞に対するtPA療法の導入(H16.12∼)であった.予後良好例はCIが,死亡率はSAHが最も多い傾向があった.またICHは機能予後不良例が最も多かった.【結論】当院における脳卒中の治療成績は前後期で大きな改善はなかったが,患者の平均年齢は前後期を比較すると2.4歳高齢化し,平均在院日数は27.2日から23.5日と3.7日短縮した.また,全脳卒中急性期患者の19.6%に外科的治療を要した.
症例報告
  • 宇野田 喜一, 中嶋 秀人, 伊藤 巧, 宮本 和典, 奥村 嘉也, 高山 勝年
    2009 年 31 巻 3 号 p. 163-167
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    症例は57歳男性.一過性の構音障害と右半身の運動感覚障害の精査目的で入院となった.身体所見では左上肢の血圧126/72 mmHg,右上肢70/52 mmHgと左右差を認め,右橈骨動脈の拍動を触知できず,右鎖骨上窩に血管雑音を聴取した.頚部血管超音波検査にて右椎骨動脈の逆流を認め,血管撮影では腕頭動脈に90%の狭窄と左椎骨動脈から右椎骨動脈への鎖骨下動脈盗血現象を認めた.また左内頸動脈サイフォンC2部の70%狭窄と左中大脳動脈後半部領域の血流低下が存在し,これらの領域へは左後大脳動脈から側副血行による潅流が認められた.以上の脳循環状態から腕頭動脈狭窄部に対し血管内治療(経皮的血管形成術,ステント留置術)を実施したところ,その後は一過性脳虚血発作が消失した.本例では腕頭動脈狭窄に起因する鎖骨下動脈盗血現象が後大脳動脈から側副血行で補われていた左中大脳動脈後半部領域の血流低下を助長し,一過性脳虚血発作の原因になったと考えられた.
  • 水谷 敦史, 中山 禎司, 田中 敬生, 小泉 慎一郎, 難波 宏樹
    2009 年 31 巻 3 号 p. 168-172
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    症例は48歳男性,突然の意識障害及び右片麻痺で発症した.頭部CTで橋上部左側・左大脳脚部から左基底核部にかけての脳内血腫を伴うクモ膜下出血を認め,脳血管撮影では上小脳動脈に上向きの動脈瘤を認めた.直ちに動脈瘤コイル塞栓術を行ったのち,開頭脳内血腫除去術及び減圧開頭術を施行した.術後,意識状態は徐々に改善していき,失語症および右片麻痺を残すも意識清明となり,リハビリテーションのため転院となった.
    脳内血腫を伴うクモ膜下出血は中大脳動脈瘤や前大脳動脈瘤に多く,テント下の上小脳動脈瘤破裂によりテント上脳内血腫を来たすことは極めて稀であり,我々が検索した限りでは同様の報告はみられなかった.本症例においては開頭術のみでは再出血した際に動脈瘤の処置が困難になると予想されたため,あらかじめ脳動脈瘤コイル塞栓術を行ったのち開頭血腫除去術を行った.このような併用療法は有効かつ安全な治療法であると考えられた.
  • 山田 茂樹, 佐藤 岳史, 八木 美雪, 勝山 和彦, 山田 知行, 齊木 雅章
    2009 年 31 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.突然の右下肢の感覚鈍麻と運動障害の症状を自覚し,救急搬送された.胸痛や背部痛はなかったが,症状出現の直前に首が締め付けられるような感覚があったため,急性大動脈解離の可能性も考え,頭部CTに引き続いて胸腹部の造影CTを施行した.頭部CTでは明らかな異常所見はなく,胸腹部造影CTにて,上行大動脈から弓部,下行大動脈,さらに左右の総腸骨動脈にかけて解離を認め,急性大動脈解離と診断し,緊急手術を行って良好な経過が得られた.
    本症例のような胸痛を伴わない突然の片麻痺ないし単麻痺で発症した急性大動脈解離の診断は困難であるが,見過ごされた場合の致命率は極めて高い.限られた時間内にrt-PAの適否を判断しなければならない急性期脳卒中の症例に対しても,急性大動脈解離の疑いがあれば,頭部CTに引き続いて積極的に胸腹部造影CTを行った方が良いと考えられた.
  • 荒木 俊彦, 山田 透子, 山口 直人, 石川 晴美, 三木 健司, 石原 正樹, 古市 真
    2009 年 31 巻 3 号 p. 179-184
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    症例は47歳男性.頭痛はなく,突然の構語障害,右上下肢の脱力にて発症,頭部CTにて左前頭葉に低吸収域を認め脳梗塞と診断した.既往に高血圧,高脂血症を認めたが頚動脈エコーや頭部MRAにて動脈硬化性変化を認めず,心原性脳塞栓も考えホルター心電図,心エコーを行ったが異常なく,凝固異常,膠原病,抗リン脂質抗体症候群,サルコイドーシス,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症,高ホモシスチン血症など脳梗塞の原因となる疾患も否定された.動脈解離を疑い,脳血管造影を行い左前大脳動脈のA2 segmentにpearl&string signを認め脳動脈解離と診断した.若年発症の脳梗塞の原因として脳動脈解離も積極的に診断することが大切であると考えられた.
短報
第33回日本脳卒中学会講演
シンポジウムIII
原著
  • 井上 智貴, 酒向 正春, 石原 健
    2009 年 31 巻 3 号 p. 188-196
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    【目的】回復期リハビリテーション期に脳卒中を再発し急性期病院へ転院となった症例の特徴を検討する.【対象と方法】対象は2004∼2006年に当院で入院治療した脳卒中1,538例(脳梗塞917例,脳出血621例)で,脳卒中を再発し急性期転院となった20例である.原疾患に基づき分類し,再発病型,治療,病態,発症からの期間,性別を検討した.【結果】再発20例は男性8名,女性12名,平均年齢70.6±14.1歳,平均在院日数49.2±35.3日(4∼111)であった.脳梗塞17例の再発は脳梗塞14例,脳出血3例であり,心原性脳塞栓症11例の再発は9例が塞栓症(PT-INR<1.6:4例;ワーファリン未使用:4例PT-INR1.77:1例),2例が脳出血(抗血小板剤使用:PT-INR1.78±0.45)であった.アテローム血栓性脳梗塞5例の再発は4例がアテローム血栓性脳梗塞であり,1例が高血圧性脳出血であった.ラクナ梗塞1例の再発は高血圧性脳出血であった.一方,脳出血3例の再発は2例が高血圧性脳出血であり,1例がアミロイドアンギオパチィーであった.【考察】回復期リハビリテーション期における脳梗塞と脳出血の再発率はそれぞれ1.7%と0.5%であった.心原性脳塞栓症再発例はPT-INR管理不良が主であり,回復期入院直後に再発する症例もあり,正確な病型診断の上で早期にPT-INR 1.6∼2.6での管理が必要である.一方,脳梗塞からの脳出血再発は抗血小板剤併用に限られ,血圧管理に注意を要する.アテローム血栓性脳梗塞の再発は外科的治療適応症例であり,回復期前の早期外科的治療の必要性が示唆される.脳梗塞からの脳出血例,および脳出血再発例ともに通常の収縮期血圧は130 mmHg以下で,週1回140 mmHgを超える程度であり,脳出血の再発予防には厳密な血圧管理が必要である.
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