抄録
新しい光電法を赤毛ザルに用い, 頚動脈および椎骨動脈系の脳血流のautoregulationの差異について検討した.脱血により全身血圧を下降せしめると, 脳血流は椎骨動脈系において頚動脈系よりも早期に減少し始め, さらに, 脱血を続けMABP約60mmHgではこの減少度の差は, より著しくなることが観察された.これは椎骨動脈領域における脳血流維持機構が頚動脈領域よりも劣ること, 換言すると, 脳幹部などの生体にとって重要な中枢の局在する領域がdysautoregulationにより血流障害を介し, 循環系のemergencyを早期より直接的に予知する可能性が推測された.
脳血流のautoregulationが頚動脈系と椎骨動脈系において差異があるか否かは学問的にもまた臨床的にも重要な問題の一つと思われる.
従来この問題に関し若干の研究がなされてきたが実験動物の種属的な相違と方法論的な困難さとが相まって, いまだ結論を得るに至っていない.そこで, 著者は人間とほぼ同じ解剖学的脳血管走行を有する赤毛ザルに著者らの開発した新しい光電法を用いて脱血による全身血圧下降の際の頚動脈系および椎骨動脈系の局所脳血流の維持能力の面からautoregulationの差異について検討を試みたので報告する.