脳卒中
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脳軟膜動脈の自律神経活動電位に関する研究
その脳循環autoregulationにおける役割について
小松本 悟
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1980 年 2 巻 4 号 p. 333-344

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抄録

脳軟膜動脈より活動電位を導出し, 脳灌流圧変動時の放電頻度の変化について検討した. (1) 脳軟膜動脈より導出した活動電位の放電頻度は, 脱血による脳灌流圧下降時に増加し, 再注入による脳灌流圧上昇時には逆に減少した.その際, 脳波には有意な変化はみられなかった. (2) 自律神経節遮断剤であるhexamethoniumbr・mide (C6) 10mg静脈内投与後, 血圧下降とほぼ平行して放電頻度も減少した. (3) dopamine-β-hydroxylase阻害剤であるfusaricacid 4.8~14.3mg/kg舌動脈内投与後, 放電頻度は著明に減少した. (4) 脳軟膜動脈より導出した活動電位の血圧変動に対する反応性は, C6投与後あるいは脳腫脹時に消失した. (5) 以上の成績は, 脳軟膜動脈より導出した活動電位が自律神経系由来のものであることを強く示唆するとともに脳灌流圧変動にみられた活動電位の反応性より, 脳血管に分布する自律神経系が脳循環autoregulationと密接に関連していると考えられる.
脳血管壁に対する自律神経線維の分布は,既に形態学的に明らかにされ,交感神経のみならず副交感神経線維の存在も実証されている.しかしこれらの自律神経の機能的役割については必ずしも明らかでない.最近Gotohらは広汎な自律神経障害を呈するShy-Drager症候群について, 血圧変動に対して脳血流を一定に保とうとする機序すなわち脳循環autoregulationが障害される事実を報告し, 脳循環autoregulationの作用機序に対する自律神経系の関与を示唆した.以後,神経性調節を支持する成績が少なからず発表されてきたが, これらの研究は, 自律神経系に作用する薬剤あるいは脳幹部, 頚部交感神経系の刺激,切断法を用いて間接的に自律神経系の関与を推測したものが殆んどで, 脳血管に分布する自律神経線維の機能的役割について, 直接アプローチを試みた成績は得られていない.本研究では, 脳血管に分布する自律神経線維より直接,放電頻度を導出し, 脳灌流圧変動時の放電頻度の変化について検討し, 脳循環のautoregulation における神経性調節機序について考察した.
1.脳血管に分布する自律神経の生理的意義を明らかにし, autoregulat三〇nにおけるその機能的役割を検討する目的で成熟猫54匹を用い, 脳軟膜動脈より活動電位の導出・記録を試み, はじめてこれに成功した.
2.脳軟膜動脈より導出した活動電位の放電頻度は, 脳灌流圧下降時増加し, 逆に脳灌流圧上昇時減少した.
3.脳軟膜動脈より導出した活動電位の放電頻度は,C67 fusaricacid投与後著明に減少した.
4.脳軟膜動脈よりの活動電位の.血圧変動に対する反癒性は, C6投与後あるいは脳腫脹の状態で消失した.
5.以上の成績より, 脳軟膜動脈壁より導出し得た活動電位は自律神経由来であり, 脳灌流圧変動時の脳軟膜動脈の活動電位の反応性は, 脳循環autoregulationと密接に関連し合っているものと考えられる.

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© 一般社団法人 日本脳卒中学会
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