抄録
抗ウイルス薬の研究は,常にウイルス学の発展とともに歩んできた.初期の抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えるとともに,宿主細胞に対しても大きな影響を与える「ウイルス非特異的阻害薬」であったが,抗ヘルペス薬アシクロビルの発見は,宿主細胞にほとんど影響を与えることのない「ウイルス特異的阻害薬」の開発が可能であることを証明した.また,AIDSの世界的な蔓延は,抗ウイルス薬の開発を加速させ,逆転写酵素阻害薬の発見を契機として,現在では作用機序の異なる複数の抗HIV-1薬を用いた併用療法が確立され,AIDSは不治の病から制御可能な病へと大きな変貌を遂げた.また,インフルエンザなど,従来はワクチンでのみ制御可能と考えられた急性ウイルス感染症に対しても,有効な薬剤が開発されるに至っている.一方,抗ウイルス薬開発の中では,ソリブジン事件のような重大な薬害も生じてしまった.このように,抗ウイルス薬の現状と将来を議論するためには,抗ウイルス化学療法がこれまで歩んできた道をもう一度振り返る必要があると思われる.