抄録
2009年春にメキシコで出現したH1N1インフルエンザウイルスにより,21世紀初のパンデミックが発生した.原因ウイルスは,複雑な遺伝子構造をもつブタインフルエンザウイルス由来であり,季節性のソ連型H1N1ウイルスとは大きく抗原性が異なっていた.ウイルスの解析からは,ウイルスの病原性が,季節性ウイルスと比べ特に強毒であるという証拠を見出すことはできないものの,HAタンパク質はすでにヒト型レセプターに結合する性質をもっていること,PB2タンパク質にはこれまでに知られていなかったアミノ酸変異が存在し,そのためヒトでよく増殖するウイルスに変わっていることなどが明らかとなった.しかし,季節性インフルエンザではほとんど見られないウイルス性肺炎が新型ウイルス感染患者にしばしば認められることや,動物を用いた感染実験の結果などから,新型ウイルスの肺組織へのより強い親和性が考察されている.今後,新型ウイルスがヒトに馴化することにより,その病原性がどう変化していくのか,注視すべきであろう.